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第68話 言えないことがある人間は、言える範囲で守るしかない

last update publish date: 2026-10-12 15:00:50

担任に「最近、何か困ってることあるか」と聞かれた瞬間、久瀬湊人は少しだけ息を止めた。

 それは放課後、ホームルームが終わった直後のことだった。

 教室の空気はもう帰り支度へ流れていて、部活のある生徒はそわそわし始め、残る者は誰と帰るかを確認し、今日も窓際の面々はなんとなく同じタイミングで動こうとしていた。

 そんな中で、担任が教卓の上の資料をまとめながら、ふとした調子で言ったのだ。

「久瀬」

「はい」

「ちょっといいか」

 呼ばれ方は自然だった。

 だからこそ、逆に逃げにくい。

 窓際の四人も、それを聞いた瞬間に少しだけ動きを止めた。

 露骨ではない。

 でも、最近の自分たちはそういう“少し”にやたら敏感だ。

「廊下でいい」

 担任が言う。

「はい」
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    担任に「最近、何か困ってることあるか」と聞かれた瞬間、久瀬湊人は少しだけ息を止めた。 それは放課後、ホームルームが終わった直後のことだった。 教室の空気はもう帰り支度へ流れていて、部活のある生徒はそわそわし始め、残る者は誰と帰るかを確認し、今日も窓際の面々はなんとなく同じタイミングで動こうとしていた。 そんな中で、担任が教卓の上の資料をまとめながら、ふとした調子で言ったのだ。「久瀬」「はい」「ちょっといいか」 呼ばれ方は自然だった。 だからこそ、逆に逃げにくい。 窓際の四人も、それを聞いた瞬間に少しだけ動きを止めた。 露骨ではない。 でも、最近の自分たちはそういう“少し”にやたら敏感だ。「廊下でいい」 担任が言う。「はい」 立ち上がる。 その間に、真白がほんの一瞬だけこちらを見た。 すばるも、日野も、紬希も、それぞれ違う形で“何だろう”の顔をしている。 ああ、と思う。 もうこういう時点で、自分一人だけの話ではないのだ。     ◇ 廊下の窓際は、夕方前の薄い光が差していた。 教室のざわめきが一枚向こうにあるくらいの距離。 完全な密室ではない。 でも、人に聞かせる前提でもない。 先生がこういう場所を選んだ時は、大抵“深刻にしたいわけではないが、確認はしたい”時だ。 担任は窓の外を一度だけ見てから、率直に聞いた。「最近」「はい」「学校の外で、何かあるか?」 回りくどくなかった。 しかも、思っていたより具体的だった。 湊人は一瞬だけ言葉を探す。

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